偉人 伊能忠敬と佐原
正直、伊能忠敬について、これまで詳しく調べたことは無かった。キッカケはいくらでもあったのだが、いままでピンとこなかった。伊能忠敬は、漁村、九十九里の生まれ、婿養子として、佐原の酒造商家である名家=伊能家に来た。伊能家では、代々、測量などの仕事も行っていたらしく、その素養が後に役立っていく。49歳で隠居するまでは、商人として有能で、バリバリのビジネスマンとして働く。数々の功績もあって、佐原の町を取りまとめる名主を拝領するまでになる。土地の名士である。
そこまでの働きも、江戸期においては、たいした成果であったわけであるが、彼が偉人といわれる謂れは、むしろ、それに終わらぬ人生後半、リタイヤしてからの20年間に集約されて開花する。老後の愉しみではないが、一念発起して、学問を志すため、江戸へと移り住み、天文方 高橋至時(よしとき)に師事/入門する。この高橋至時は、今では知られていないが、年齢的にかなり年上である伊能忠敬を終始バックアップした重要なキーマンであり、優れた人材であった。
天文方とは、幕府お抱えの天文暦/天文学者と思っていい。江戸時代に、海外からの知識に精通し、当時すでに、世界地図を入手していたり、宇宙論を作ったりと、それはもう、最先端ともいえる壮大な考えの主であったと思われる。そういう学派に属していた高橋の門下生として、狭い封建社会の眼差しとは離れて、遠く地球の果ての天体観測から、日本国土を見つめるという理想を詰め込んで、日本地図の作成のため測量を行ってきた。驚くべき先見性と、地道な薫陶が光る。芭蕉とは違う想いを追って、日本各地を廻ったのだと思う。
伊能忠敬記念館は、そんな郷土が生んだ、佐原の偉人 伊能忠敬の旧宅を開放展示するとともに、小野川の景観を保つために、小江戸佐原の文化的な核として作られたものである。
展示品も、展示内容も、非常にわかりやすく、見るに値する。伊能忠敬は、始めの頃、志し清く、いわば、自費を投じて、日本の測量を始めていた感がある。その後、その功績が幕府に認められたことにより、国防上の観点から、後押しがあり、公費で、日本中の測量が任されたといっていい。
各地での測量は、江戸時代で、物理的な弊害も多々あったろうとは推測されるが、人的な妨害等もあったそうで、糸魚川では、かなり現地役人との葛藤に悩まされたようである。そういう並々ならぬ苦労を経て、いまでも、十分通用するような、海岸線がバッチリと確定された地図が、彼の死後になって完成する。
あまり知られていないが、伊能忠敬の地図作成に与えられた時間は、昼は現地の測量、夜は天体観測に当てられたという。つまり忠敬は、昼夜問わず、地図つくりに邁進し、いまでいうところのランドサットのような働きを自ら考案しながら、全国津々浦々を歩き回って、地図を起案させたのである。
△ 樋橋(とよはし) : このちっぽけな橋、見ていたら、なにやら、橋の両脇から水が溢れ出てきたのでビックリした。観光協会の方に聞いたのだが、もとは、小野川に掛けられた農業用水を運ぶために設えた大きな樋(とよ)の役割を果たしたものの再現したものらしい。
この橋から、溢れた水が、両端から川へと落ちるために、水がじゃ~じゃ~と落ちる音から、ジャージャー橋と呼ぶようになったという。先に、樋として渡したものだが、後から、橋としても機能するようになった。船着場になっており、ばぁさんが船頭を務める観光船ばかりに目がいくが、この樋橋の水のセレモニーにも注目してほしいものだ。写真は、ナイアガラのように落ちる水のベール瞬間時に撮影。30分おきに落水が見られます。
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赤坂 四川飯店@永田町駅前/平河町
汁なし担担麺なら、こちらも元祖かと思います。
日本へと四川料理のイロハを注入してきた、陳 健民、その料理の遺伝子を継ぐ、陳 健一が率いた、四川飯店、その総本山、本店とも言うべき、赤坂のお店を訪ねました。
駅で言うと、一番アクセスが便利なのが、地下鉄半蔵門線の永田町駅、都道府県会館に通じている出口から地上へと出て、貝坂通りと諏訪坂に挟まれた、全国旅館会館という、ボロっちいビルの6階にレセプションがあります。
四川飯店を、外せないのは、やはり、後続の料理人たちが、こちらの出身および、修行後が多いためです。味は、継承され、また、時代に応じて進化していくものですが、やはり王道/基本の肝を押さえておくことは、いかなる場合も、肝要かもしれません。だからといって、最重要と言うわけではなく、やはり、どんなものか、知っておくことが正解なのです。
* 赤坂店 : 千代田区平河町2-5-5 無休
11:30~14:00 17:00~22:00
四川風 正宗担々麺 : 1260円(+サービス料)
☆☆☆
可も無く不可も無い、しかし、サービス料が付いてまで、これだけ食べるものでもありませんが、担々麺のプロトタイプを知るうえで、麻婆豆腐と共に、やはり欠かせません。メニューには、汁なし、汁ありと2点が併記されていますが、別のページにある、この四川風正宗担々麺(見落としがちではありますが)、本格派ものが、もうひとつ存在します。
何が、違うのかと言えば、前者が、よくある、ゴマ味噌風味であるとするならば、こちらは、明らかに黒醋を主にしたソースに重点が置かれたタイプと思われます。
* 注意 : 通常、気兼ねなく、ただ、汁なし担々麺と頼むと、いわゆる赤くて、芝麻醤(ゴマ味噌ペースト)を効かせた、健民担々麺(いわゆるタンタン麺として、日本人向けに創作されたもの)の汁が、あくまで少ないタイプのもの(=1155円)となりますので、要注意。なお、正宗タイプが、すべての支店で食べられるわけではなく、味のレベル的な差も顕著ですので、あくまで赤坂を押さえるのが常套です。
前述の芝蘭店主も、こちらの四川飯店出身なので、やはり似たような系統の味わいです。麺は、かなり固ゆでされた、日式の麺で、けっこう食感は、タレと馴染みます。
表現すると、肉味噌の黒醋風味見たいな味わいですが、食後に、山椒のシビレ感、唐辛子の刺激が、程よい感じで、ほんのり残ります、この程度が実に辛すぎずに、日本人の口に合うよう、ちょうど生み出された絶妙さなのだと思いますが、物足らなさでもあるのです。
* 四川飯店さんは、サービス料を取られるだけあって、中規模ながら、さすがにサービスが行き届いています。帰り際には、支配人らしき方にも見送られ、まぁ、何不足無いんですが、中華らしさのエゲツナイ押しの部分は、洗練されて日本人の口に合うよう工夫されているので、少ないかもしれません。 続きを読む
東京坂道散歩 / 冨田均 前にも、取り上げ、わたしが敬愛する、町歩きの師匠と仰ぐ=冨田 均さんの2006年刊になる著作。冨田さんは、文章も特に巧いわけでもなく、写真も見栄えするものはありませんが、とにかく、東京中をカヴァーしていて、その歩きがスゴイです。たぶん、キャリアから言っても、この人に、おそらく適うひとは居ないでしょう。
東京新聞、朝刊に連載されていた、《坂道を歩こう》、をベースに、組み立てなおしたのが、本書の成り立ち。東京を隈なく歩きながら、その切り口を無限に見つけてくる、映画・小説の舞台、文人・スターにちなむ坂道、自分の想い出の中にある昭和の断片、それらを整理しようが無いほど、たくさんの情報、事細かに、メモ書きし、事象ごとに分類しながら、年代別に蓄積していく。
永井荷風=日和下駄も、ひとつの作品として、優れた域まで達しているが、そこにあるのは、江戸風情を懐古した哀弔、惜別が混ざった心象風景である。
冨田 均には、詠嘆が無いわけではないが、その代わり、実に、淡々として、坦々と歩いているように感じさせる。それは、どこまで行っても、東京の片隅でしかなく、その拡がったさまは、銀座も、京島の路地も、おそらく同等にお馴染みの顔なのである。しかし、唯一、自分が生まれ育った、田端界隈のアップダウンが多い場処では、特別な想いを吐露させる。
冨田さんは、映画製作に関わっていたこともあり、映画の場面をよく覚えている。登場人物と、風景描写とのハザマに、ちょこっと映った、坂道の存在を、あきらかにしていく。40年間の町歩きで、そのつどのテーマが違っていて、その題材ごとに、まとめられて本が書かれる。
現在は、町歩きの区切りも、第十次東京散歩であると、本人は記している。坂を明記させる想い出に、植物たち、とりわけ、樹木が登場するのも、冨田流。
「 最近、谷中の赤字坂から銀杏の木が一本、消えているのに気がついたが、その時と同様の悲哀を覚えた。散歩の楽しさは数え切れないくらいに多いが、樹木との出会いもその一つだ。とりわけ坂と樹木の取り合わせには豊かな詩情がある。 」
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山岡鐵舟(鉄舟)
~ 晴れてよし、曇りてもよし、富士の山、元の姿はかわらざりけり。 NHK大河ドラマ、篤姫の視聴率が、かなり高いらしい。黒船襲来、大政奉還へとめまぐるしく展開する、激動の幕末を描くのに勝海舟や西郷隆盛は、お馴染みの適役/主役であるが、情勢の影となり生きた女性の生き様を描いたことに、それ相応の共感が得られたらしい。
自分は、江戸から明治維新を駆け抜けた人材では、シンパでも、もとから、山岡鉄舟を師と仰いでいる。同じく祀り上げられることが多い、坂本竜馬のように若くして世を去ってしまった人間ではなく、明治に至るまで生きながらえ、ひとりの人間として無私無欲に生きた愚直な姿に、紛れも無い、ひとつの生ある信実を見る。
初めは、勝海舟の本から読み始めていくうちに、山岡鉄舟という剣客が居た事に突き当たり、彼への関心が移り、次第に、その伝記等を通じて、生き方や存在感に、のめり込んで行った。
鉄舟に関する書物は、ひととおり、揃えて目を通したものだが、自分を含め、かなり心酔するほどに贔屓の引き倒し気味に、熱狂的ファンが多い人物らしい。もっとも、義経などとくらべると、その判官贔屓は、たいしたこともなかろうが、まずもって、鉄舟が主役となった書物には、いささかオーバーに取り上げられたエピソードに眉唾も多い。それだけ豪放磊落を覗かせるに事足りない証左であろうか。
なにしろ、いまより個性的な人物が多かったとみえる江戸時代の事、そのエピソードの豊富さには事欠かない。 曰く、ある人が、鉄舟に剣道の極意をきいたところ、浅草の観音様にあずけてあると答えた。それは、浅草寺の本堂に寄贈された=施無畏と書かれた、扁額のこと、だったらしいのだが、真意は、怖れを取り除きなさいと言う意味合いで、人を殺す剣術で、生死の境を生きる武士にとって、禅道で鍛錬し、坦懐するとは自己を活かす道を喝破し得ることとされた。
△ 我が家の書棚に、居並んだ、山岡鉄舟関連書籍のコーナー。ごく最近、2002年に発刊された、小島英煕さんが描いた、鉄舟の生涯を読む。史実をどう使うって、どう捉えるか、によって、描くところの人物の立ち上がり方も違って見える。
ひとりの人物描写で、100人が書けば、100様の伝記ができあがるのかもしれない。こちらの伝記は、小説とも、史実とも、双方の兼ね合いから描かれた、読みやす、偏りの少なく公平な内容。 山岡鉄舟を語るとき、シンパなら、ともすると時代を超えた、傑物という最上の思い入れがある。
しかし冷静に考えると、やはり時代の波に翻弄されていくなかで、浮かびも沈みもしながら、歴史の綾に絡め取られて、しっかりと自分の立ち振る舞いと立ち位置を定めて、巧くコントロールできた数少ない人物として捉えなければいけないだろうと思う。
半面で、巧妙に長けて、上手に立ち回ることのみを善しとしかったところに、山岡の面影は愚直にも映り、あくまで世間的には、政治家足り得ぬが剣客止まり、反近代的な残党、近代と言う残照を背負いながら明治天皇の良き遊び相手となり、生き延びた苦労人という姿にも行き着く。
そのあたりの豪放磊落さ加減、不器用さ、実直さが、却って仇にはならず、憎めないけれども、任侠の清水次郎長にも慕われた人柄なのかなぁ~と思う。たとえ、山岡鉄舟という人物が、幕末に傑出していなくとも、開港は行われたであろうし、大政奉還も為されたであろう。
しかし、その際に、尊皇攘夷派・危険分子による居留地焼き討ちが加速せずにブレーキを架け、横濱が焦土と化すことなく、また、江戸開城に幾多の屍が累々と積み重なるような、無茶な暴徒たちの行動を事前にコントロールできたのは、ひとえに鉄舟の豪快な睨みが利かされていたからだと、つくづく思うことにしている。谷中にある全生庵の墓前に参ること数知れず。
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和風らぁーめん 葉月@雪谷大塚
2003年オープンの個性派実力店
心に残る、美味しい麺
東急池上線、雪が谷大塚駅を降りて、中原街道を環八方向へと数分ほど歩いた先に、和風らぁーめん 葉月さんがあります。または、田園調布駅前バス停から、東急バス、蒲田駅行きに乗って田園調布郵便局前下車、バス停のすぐそばにあります。
土曜日、昼時、並びは数名。カウンター10席だけの、狭く窮屈な店内。せっかくの美味ラーメンなのに、こんなにも食べづらい体勢を強いるのは、酷だけど、だから噛み締める旨さもあるのかと思う。
* 大田区雪谷大塚町11-8 月火休(臨時休業あり)
11:30~14:00 18:00~売り切れじまい
(昼時は、ランチタイムサービスとして、+100円で御飯なども付くが、どちらかといえば麺だけで十分に満足させるお店だと思う。)
らぁーめん : 800円
☆☆☆(ただしラーメンとしてのトータル評価)
めん : ☆☆☆☆☆(普通盛=300g)
自家製麺が、トビキリに美味しい!麺喰いとしては、絶対に、おススメな、バツグンの食感。こんなにも、いろんな麺を食べつくしている中で、麺が心底美味しいと感じさせてくれる店に、出会える確率は少なく、ひさびさのヒットになりそう。この春先までは、そば粉を混ぜた麺で評判を呼び、それ以後は、イタリア産デュラム粉を入れて、スパゲッティーのような打ち出し式外観で勝負している。つねに、進化を遂げる革新的なお店らしい。
麺の食感は独特なものがあり、スパゲッティーのような色と丸い断面は、あたかも五島うどんや沖縄そば、盛岡冷麺のような、あるいは、それとも違う、個性的で魅力的な完成度が高い麺です。
スープ : ☆☆☆
ちょっと自分には、クド過ぎる。勢得のスープより、洗練されていて、更にコクを引き出している。そのベースとなっているのは、珍しく白醤油に、フランスはゲラントの塩、水炊きの鶏がら濃厚スープみたいなものと魚介風味、焦がしニンニクだろうか。壁には、現在の麺とスープの使用している素材とレシピが詳細に張り出されている。事細かな詳細表示は、店主の自信の表れだろうか。無化調。
総括 : チャーシューも独特で、香りがすばらしい。メンマも特徴的でおいしい。トータルとして、予想以上に完成度合いが高い作品。もはや、和風でもなく、洋風でもなく、ひとつの創作料理のような域まで達している。店主は、なかなかのセンスと料理人として腕があると思われる。ただし、ラーメンとして味わうには、いささか、気合入りすぎかもしれません。カジュアルな方向性が常人とは違っていて、もう少し、ラフにしてもらえたら、きっと、町のラーメン屋さんになるだろうと思う。いずれにせよ、おススメ店。 続きを読む